【年末の贈り物】《品切稀少本》無視された聴衆　現代音楽の命運　原博

《品切稀少本》
無視された聴衆　現代音楽の命運
原博

はたして、現代において、人々が心から欲している音楽は生み出されているのだろうか。自ら作曲家として活動を続けている著者が、現代音楽の辿ってきた経緯に具体的に触れながら、聴衆との関係において作曲界がかかえている問題点を率直に指摘。感性を拠り所にしながら、音楽ひいては芸術全般における真の「新しい」発想による創作を提言し、持論を展開する。


ドビュッシーの「コンセルヴァトワール批判」はこうした教程の標本化に対してであると同時に標本の中身にも向かっている。そこで扱われる和声法、対位法などは機能調性と言われる17・18・19世紀に渡って君臨した音組織を土台とし、楽式的には「相も変わらず」三部形式やソナタ形式に終始するその「硬直性」は、若いドビュッシーの「躍動」する冷笑主義の格好の餌食となる。ドビュッシーはもちろん、右目でワグネリズムが機能調性のどんづまりに来ているとにらみ、左目でロシアの素人作曲家たちの型破りをにらんでいた。時は「印象派」で湧きかえっている。まさにあのパリ万国博を彼は両眼で見た。しかし、彼もまたラヴェルも決してただの野師ではなかったのである。彼らの開いた音の世界は、まさしくもう一つの音楽的地質の中に潜んでいた素晴しい鉱脈なのであった。ただしこれは、極めて微量にしか存在していないある高貴な元素を抽出したような出来事だった。これは立派に聴衆に理解されるものものとなった。……
〈第2章「芸術の命運」より〉

1913年にストラヴィンスキーの『春の祭典』がパリで上演された時、客席は大混乱し、しまいには聴衆が暴動化して「こんなものは音楽とは言えない」と叫び、…略…。
この音楽の特殊性は、従来の音楽が、例えば耕された土地からの持続的な収穫物であるのに対して、特殊な地質を持った土地からの一回限りの収穫物と似ているところにある。しかしその土地を見出したのはストラヴィンスキーだけが持っていた鋭い嗅覚であった。彼は決して耕さない。彼は画家のピカソとともに焼畑農業者であった。この方法は芸術上では彼らのような原初的非理論的な野人の気質のみがよく行ない得るものだ。……。1913年パリの聴衆の耳はそれを的確に聞き取っていたのであり、彼らは実は何一つ間違っていなかったのである。……。
〈第2章「聴衆論」より〉


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